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短編

男の子が生まれないなら、アパートを手放しなさい

熾星

全1話[18,660文字] ヒューマンドラマ〔文芸〕
結婚して三年。

 義母から届くLINEは、いつも同じだった。

「水天宮の安産御守は本当にご利益があるのよ」

「男の子を授かるって評判の子宝神社があるの。今度、一緒に行きましょう」

「女は三十を過ぎると、身体が変わるのよ。綾乃さん、そろそろ本気で考えてちょうだい」

 私は夫の佐藤直樹に訴えた。

「お義母さんに、毎日こんなものを送られるのはつらい」

 けれど直樹はスマホから顔も上げず、面倒くさそうに言った。

「母さんは孫の顔が見たいだけだよ。そんなに神経質になるなよ」

 結婚生活を守るため。

 世間体のため。

 佐藤家に嫁いだ女として「気が利かない嫁」だと言われないため。

 私は、ずっと耐えてきた。

 けれど、あの日。

 キッチンの入口に立ったまま、私はリビングから聞こえる義母と義妹の会話を聞いてしまった。

「美緒が結婚したら、綾乃さんのマンションを空けてもらいなさい。新居にちょうどいいわ」

 義妹の美緒が、甘えるような声で尋ねた。

「でも、お母さん。綾乃さんが嫌だって言ったら?」

 義母は、鼻で笑った。

「言えるわけないでしょう。佐藤家に嫁いで三年、子どもひとり産めない女が、あんな立派なマンションを独り占めしているほうがおかしいのよ。直樹と結婚したんだから、あの部屋だっていずれ佐藤家のものよ」

 私はキッチンの入口に立ったまま、洗ったばかりの湯飲みを握りしめていた。

 指先が、少しずつ冷えていった。

 その夜、私は直樹に聞いた。

「お義母さんが、私のマンションを美緒さんの新居にするって話していた。あなた、知っていたの?」

 直樹は顔も上げなかった。

「家族なんだから、そんなに線を引かなくてもいいだろ。お前のものは佐藤家のものでもあるんだから」

 私は彼を見つめて、ふっと笑った。

「そう。佐藤家のものを分けるのがそんなに好きなら、ちょうどいいわ」

「離婚協議書なら、もう用意してある」

「あなたには、この家を出ていってもらうだけ」

集英社小説大賞7 シリアス 女主人公 和風 現代 職業もの 群像劇 日常 家族ざまぁ クズ夫 因果応報 逆転劇 復讐 現代ドラマ 女性の自立
全1話[18,660文字]
各話平均18,660文字
[推定読了0時間38分]
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最新作投稿:2026年06月11日(15:08:48)
 投稿開始:2026年06月11日(15:08:48)


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