データ取得:2026-06-10未明
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'『マナセ ――それでも赦されるなら』 ~ユダ王国最悪の王は、鉄の鎖の先で初めて空を見上げた~'
かおるこ
全12話[23,367文字] 歴史〔文芸〕黄金でできているからではない。
誇りと欲望と、
誰にも言えない恐れが染み込んでいたからだ。
若き王マナセは、
父の残した光から逃げるように闇へ向かった。
祭壇を築き、
偶像を立て、
人々の歓声を力だと思った。
だが歓声は風だった。
吹けば消える。
残ったのは沈黙だけだった。
夜になるたび、
処刑された者たちの足音が聞こえた。
見ないふりをした。
聞こえないふりをした。
王だから。
強くなければならないから。
そう思っていた。
だが鉄の鎖は、
そんな虚勢を簡単に砕いた。
牢獄の石床は冷たかった。
王宮の香油の香りはない。
豪華な食卓もない。
あるのは湿った土の匂い。
滴る水音。
暗闇。
そして自分自身だけだった。
逃げ場はなかった。
初めて知った。
自分が恐れていたのは敵ではない。
自分の罪だった。
失った命は戻らない。
流した血は消えない。
若さも。
王座も。
過去も。
何ひとつ戻らない。
だからこそ彼は祈った。
遅すぎる祈りだった。
愚かな祈りだった。
それでも祈った。
誰に聞かれなくても。
誰に笑われても。
「エホバよ」
長い沈黙のあとにこぼれたその名は、
涙の味がした。
赦しとは忘れることではない。
傷が消えることでもない。
罪がなかったことになることでもない。
赦しとは、
壊したものを知りながら、
それでも歩き続けること。
失ったものを抱えながら、
それでも顔を上げること。
鉄の鎖の先で、
王は初めて空を見上げた。
そこには若い日のような栄光はなかった。
ただ青空があった。
誰の上にも同じように広がる空。
罪人の上にも。
善人の上にも。
涙を流す者の上にも。
マナセは知った。
神は高い玉座の上ではなく、
砕かれた心の中におられることを。
だから彼は歩く。
後悔とともに。
希望とともに。
夕暮れのエルサレムを。
そして最後の祈りを捧げる。
「私は善き王ではありませんでした。
けれど、
あなたは善き神でした」
沈む夕日の向こうで、
赦しの光は静かに燃え続けていた。
(各話平均1,947文字)
[推定読了0時間47分]
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最新作投稿:2026年06月09日(16:09:48)投稿開始:2026年06月09日(08:56:33)
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