データ取得:2026/06/21未明
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『その美しい檻に、鍵はかかっていなかった』
かおるこ
全11話[29,926文字] 純文学〔文芸〕白い薔薇が咲いていた。
硝子の噴水は静かに光を砕き、
鳥たちは誰にも気づかれぬまま
朝を歌っていた。
誰もが言った。
あの美しい人は囚われているのだと。
高い塀に囲まれ、
閉ざされた離宮に住み、
自由を奪われた可哀そうな小鳥なのだと。
だから皆、
檻の外から憐れんだ。
けれど誰も知らなかった。
扉が開いていることを。
鍵が最初から存在しなかったことを。
檻を作った男は誇らしかった。
今日も美しい小鳥は逃げない。
今日も自分だけを見ている。
今日も自分の与える水を飲み、
自分の与える言葉に震えている。
そう信じていた。
信じることで、
自分が特別になれたから。
だがある日、
世界が崩れた。
栄光も。
誇りも。
名前も。
地位も。
すべて風にさらわれてしまった。
最後に残ったのは、
白い薔薇の庭だけだった。
そこで彼は知る。
自分が檻の主ではなかったことを。
小鳥は最初から飛べた。
空を知っていた。
翼を持っていた。
ただ、
飛ばなかっただけだった。
「どうして」
と彼は問う。
「なぜ逃げなかった」
美しい人は微笑む。
「逃げる必要がなかったから」
「貴方がここにいたでしょう」
それは告白だったのか。
呪いだったのか。
救いだったのか。
誰にも分からない。
ただ一つ、
確かなことがあった。
本当に囚われていたのは、
どちらだったのかということ。
開いた扉の向こうには
自由がある。
けれど自由とは、
行きたい場所がある者だけのものだ。
帰る場所を失った者にとって、
開かれた扉は
ただの風景になる。
男は立ち上がる。
そして、
ゆっくりと扉を閉めた。
誰にも命じられていない。
鎖もない。
鍵もない。
それでも彼は残る。
白い薔薇の香りの中で。
硝子の光の中で。
狂おしいほど優しい腕の中で。
鳥籠は美しかった。
あまりにも美しかった。
だから彼はもう、
外の空を見上げようとはしなかった。
その美しい檻に、
鍵はかかっていなかったのだから。
(各話平均2,721文字)
[推定読了0時間60分]
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最新作投稿:2026年06月08日(03:46:55)投稿開始:2026年06月06日(07:06:11)
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