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大空の第三者〜八咫烏が辿る、関西80年の銀翼の記憶〜

velvetcondor guild

全81話[170,552文字] その他〔その他〕
地上の特等席
― 豊中つばさ公園にて ―
(語り部:八咫烏の黒羽ノ介)

伊丹の空を語るなら、千里川のほとりを避けて通ることはできん。

滑走路の南端。
着陸する機体が頭上をかすめる、あの場所や。

わしは昔から、何度もあそこを飛んできた。
軍用機が唸りを上げていた時代も。
戦後の混乱で、人々が空を見上げる余裕を失っていた時代も。
ジェット機の轟音に、周囲の町が揺れていた時代も。

みんな知っとる。
伊丹の南側は、長いこと「空の痛み」を背負った土地やった。
けれど時代は流れる。
人も変わる。
空も変わる。
そして今、その場所には新しい名前が生まれた。

豊中つばさ公園。
愛称は「ma-zika」。
なるほど、よう考えた名前や。
飛行機が近い。
ほんまに間近や。
わしが滑走路へ降りる機体と並んで空を舞うと、地上では子どもたちが歓声を上げとる。

「来た!」
「でっかい!」
「お腹が見える!」
銀色の翼が頭上を通り過ぎるたび、小さな手が空へ向かって伸びる。

その姿を見とると、不思議な気持ちになる。
昔、この場所で聞こえたのは苦情や不安の声やった。
けれど今は違う。
笑い声や。
歓声や。
憧れや。
同じ空。
同じ場所。
それなのに、こんなにも景色は変わるんやな。

屋根付きの展望広場。
清潔なトイレ。
授乳室。
家族連れが安心して過ごせる場所。
飛行機好きの若者も。
写真を撮る愛好家も。
空を見上げるだけの人も。
みんな同じ方向を向いとる。

空や。
わしは思う。
空港とは、飛行機が発着する場所やない。
人が空へ憧れる場所なんや。

その原点が、この千里川のほとりには残っとる。

2025年。
公園の一部が開いた。

そして2027年には全面開園を迎える予定やという。

きっとその頃には、もっと多くの笑顔が集まるやろう。

わしは高い空から見守る。
伊丹の歴史を。
関空の成長を。
神戸の未来を。

そして、この場所で空を見上げる人間たちの瞳を。
空は変わり続ける。
けれど、空を見上げる気持ちは変わらん。
それが少し嬉しくてな。

今日もわしは、千里川の風に乗って翼を広げるんや。
地上の特等席で見上げる人間たちに負けんようにな。

全81話[170,552文字]
各話平均2,106文字
[推定読了5時間42分]
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最新作投稿:2026年06月02日(16:39:15)
 投稿開始:2026年05月30日(09:28:57)

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