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N3827ML 26pt
短編

大晦日の夜、我が子が奇妙に消滅!狂いそうな私に夫が突きつけたのは『俺たちは10年もディンクスだろ』という絶望の嘘!

熾星

全1話[14,122文字] ヒューマンドラマ〔文芸〕
今日は大晦日だった。

 東京では珍しく雪が降っていた。細かな白い粒が、港区の高層マンションの外に並ぶ街灯の下で、夜の底に薄い灰をかぶせたように舞っている。

 遠くの寺から除夜の鐘が聞こえ始めたころ、陽翔はまだ窓辺に張りついていた。神社の参道の先に見える灯りを指さし、初詣の屋台を見に行きたいと何度もせがんでいた。

 部屋の中は暖房がよく効いていて、年越しそばのつゆの匂いがまだ残っている。テレビでは年越し番組が流れ、芸人たちの笑い声が明るすぎるほど響いていた。

 私は陽翔に赤いダウンジャケットを着せ、手編みの赤いニット帽をかぶせた。特撮ヒーロー柄のその帽子は、縁が少しだけ歪んでいる。それでも陽翔は、世界でいちばんかっこいい帽子だと言ってくれていた。

「ママ、甘酒飲みたい」

「子どもでも飲めるやつだけね。勝手に走っちゃだめ。パパの手、ちゃんとつないで」

 蓮司は玄関で黒いダウンを羽織り、陽翔のマフラーを整えていた。顔を上げて私を見ると、目尻に少しだけ笑みを残した。

「大丈夫。温かいのを一杯買って、すぐ戻る」

「ママも待っててね!」

 陽翔は小さな手を伸ばして、私とハイタッチをした。

 私は笑って、父子がエレベーターへ向かうのを見送った。扉が閉まる直前、陽翔は隙間から手を振っていた。

 鐘の音が、ひとつ、またひとつと夜に沈んでいく。

 私は窓辺に寄り、下を見下ろした。神社へ向かう人の流れはそれほど多くない。雪のせいで、街全体が奇妙なほど静まり返っていた。

 十分ほど経ったころだった。

 コンビニ脇の路地から蓮司が出てくるのが見えた。

 ひとりだった。

 陽翔の手を引いていない。

 蓮司は雪の中に立ち、うつむいて煙草に火をつけた。

 心臓が、凍ったように縮んだ。

 私はスリッパも履き替えず、コートだけつかんで部屋を飛び出した。エレベーターは氷づけにされたみたいに遅い。階数表示がひとつ下がるたび、手のひらから熱が抜けていった。

BK小説大賞2 女主人公 現代 社会派サスペンス 記憶改ざん 心理サスペンス
全1話[14,122文字]
各話平均14,122文字
[推定読了0時間29分]
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評価人数:3人(平均4pt)

最新作投稿:2026年07月12日(17:00:00)
 投稿開始:2026年07月12日(17:00:00)

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