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短編

透明な結婚

牛飼山羊

全1話[26,061文字] 異世界〔恋愛〕
私は誰のことも愛しちゃいけなかった。
例えそれが夫であっても、心を委ねてはいけなかった。
なぜなら私は王女だったから。
私には国を守る義務がある。
常に大局を見据え、誰かに利用されることがないよう、気を張っていなければならない。

それでも、私は夫を愛してしまった。

夫は小国の王子だった。
素朴で、優しい人だった。
私たちの結婚は政略的なもので、互いに、王族としての義務を果たしたに過ぎなかった。
けれどいつの間にか、私は彼を心から愛するようになっていた。

いけないことだった。
それに、彼は、私を愛していなかった。
彼の優しさは義務的なものだった。
彼が口にする愛の言葉は、后との仲が良好であることを周囲に示すためのものだった。
それでも、私は彼を愛した。
いつか彼に愛される日を夢見ながら、透明な結婚生活を送っていた。

しかしそんな虚しくも平穏な生活は、長くは続かなかった。

近隣諸国に戦争の影が指し、私たちの国にも軍靴が聞こえるようになっていったのだ。
危機に瀕した私たちに、大陸一の帝国が支援を申し出た。
彼らの出した条件は、自国の姫と王子の婚姻だった。
私を后から下ろし、自国の姫を正妃とせよ、というものだった。
断る理由はなかった。
私含め、誰もがこれに乗る他はないと思った。
けれどなぜか、王子は固辞した。
私を離縁することはおろか、側妃に下ろすことも認めなかった。
周囲はひどく困惑していたが、私だけは理解していた。
彼がそう言わなければならない理由を。

そうして私は毒杯を仰いだ。
この透明な結婚に、美しい終止符を打つために。

彼を、偽りの愛から解放するために。



(中世西洋風王侯ものです)
(愛し合っていたふたりの悲劇です)

シリアス 中世 バッドエンド すれ違い
全1話[26,061文字]
各話平均26,061文字
[推定読了0時間53分]
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評価人数:742人(平均4.4pt)

最新作投稿:2024年09月27日(22:45:51)
 投稿開始:2024年09月27日(22:45:51)
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